Chap1 3月11日、耐震性は?
3月30日、東日本大震災から約20日をへたこの日、参創ハウテックにて東京家づくり工務店の会(TO-IZ)パートナー工務店4社の代表が集い、震災後初の定例会議(第31回)が開かれました。大震災を契機とした様々なテーマの中から、いま建て主の方々に知って頂きたい大切なことをまとめました。
コラージ編集部:TO-IZの建てた住宅や建設中の住宅に被害はありましたか?
池田(岡庭建設):地震そのものの被害はありませんでした。今回の地震は東京23区で震度5強でしたが、加速度は250ガル(用語解説)ありましたので、限りなく震度6に近かったと思います。東京でこの揺れは関東大震災以来でしょう。物が落ちたり家具が倒れることも無かったので、ある意味、我々の取り組んできた耐震性向上の試みを実証できたと思います。一方、ガスメーターの復旧方法について問い合わせが多くありました。都市ガスのメーターは震度5相当以上でガスをストップします。その復旧法が分からなかったり、ガスメーターの設置場所を教えて欲しいという連絡もあり、当社のホームページにも復旧方法を掲載しました。地震直後は電気・ガス会社のホームページもアクセスできない状態が続きましたので、まずは工務店に聞いてみようという方が多かったのかもしれません。
中里(創建舎):私の所も住宅自体の被害はありませんでした。ひび割れや透き間を生じるケースもなかったので、充分な耐震性を実証できました。
田中(田中工務店):造り付けの家具にしてよかったという声をよく聞きました。中の物が倒れる可能性はありますが、造り付け家具自体は倒れませんから安心感があります。被害というと瓦屋根でしょうか。都内であっても古い瓦がずれた所がありました。とはいえ施工・メンテナンスをしっかりすれば優秀な屋根材であることに変わりありません。
清水(参創ハウテック):東京で震度5強ということで、「これなら我々の建てた家は大丈夫だ」と自信はありました。ただし震災直後に電話が通じなくなり、メールなども利用して全戸の無事を確認できたのは翌週の月曜でした。
池田:今回印象的だったのは「家守りメール」の登録が一気に増えたことでした。建て主の方々は皆、工務店の的確な情報を求めていることが分かりました。
編集:TO-IZでは今、住宅のアフターメンテナンスを強化した「家守り」活動に力をいれています(ア・ハウス・オブ・コラージVol.8参照)。家の面倒を末永く見守ってくれる作り手が求められているのでしょうか。
田中:結局こういう時に頼れるのは、設計者でも、ハウスメーカーの相談窓口でもなく、実際の作り手である工務店ということが明確になったと思います。
Chap2液状化がもたらしたもの
編集:東京や近隣各地の被害で特に大きいのは、浦安・舞浜をはじめとして、江戸川区、新木場、豊洲などで発生した「液状化現象」だと思います。
田中:舞浜でリフォームする予定のお宅がありました。液状化で家が傾いてしまい、そちらを先に直すしかありません。沈下の修正工事はとても高額なため、保険だけではまかないきれない可能性もあります。舞浜は高級住宅街として注目されてきましたが、地価の下落も心配されています。
清水:地盤の液状化は「地盤保証」(用語解説)では補償しきれないと思います。今回その存在意義自体を問われることになるかもしれません。軟弱な地盤への対応として「摩擦杭」や「柱状改良工事」があります。しかし地盤の液状化に対してはほとんど効果がないと思います。液状化の可能性については「重要事項説明」(用語解説)の事項のひとつに加えられるかもしれません。
中里:各自治体では、液状化の危険性や地震の揺れやすさ、洪水・津波の被害予測などのハザードマップをホームページなどで公開しています。今後は、こうしたデータが地価にもたらす影響も大きくなっていくのではないでしょうか。
Chap3工事への影響。完成保証は?
編集:合板メーカーが津波の被害を受けるなど、建材・設備の品不足が懸念されています。一部では買い占めも起っているようですが、工事への影響はいかがでしょう。
池田:震災後に3軒の引き渡しを完了しました。一番の困ったのは、原発事故や計画停電などで東京電力が手一杯で、受電工事を予定通り出来ないケースでした。幸い交渉によって難を逃れましたが ……。
中里:震災によって家づくりへのモチベーションが下がってしまい、打ち合わせ中の事例にストップがかかったケースもあります。
田中:うちは工場から納品される予定のキッチンが破損してしまい、結局メーカーを変更して対応しました。
清水:震災の影響も大きいですが、震災直前に明らかになったサッシメーカーの「耐火性能の偽装問題」(用語解説)は、まだ尾を引いています。サッシの耐火性能が充分でないことが判明し、確認申請や中間検査はOKだったものが、完成検査だけ通らないという変な状態になっています。特に住宅ローン「フラット35」などを利用した方々は、完成検査を通らない→審査が下りない→工事費を支払えないという問題を抱えてしまいます。建て主も我々も被害者で、震災とのダブルパンチになっています。
中里:合板はすでに生産がストップしているので、足りない状態が始まっています。
清水:いま住宅で使われる合板の多くは、東北地方で生産される「針葉樹合板」です。針葉樹合板最大手ホクヨープライウッドの関連7工場のうち、6工場が津波の被害にあっているそうです。工場再開の見通しはついていないので、現状は在庫品で対応していますが、仮設住宅向けに優先して出荷されている状況です。こちらとしては、ラワン合板やOSBなど、パネル材の転換も検討する必要があります。また国内最大のレンジフード工場や、キッチン工場、排水トラップの工場なども被害を受けています。
中里:こうした状況のなかで、資材不足から着工できず、経営を持続できない工務店も増えると思います。心配なのは「住宅完成保証制度」が成り立たなくなる可能性があることです。完成しないリスクが高まると、保証を引き受ける機関が成り立たなくなることも想定できます。
編集:TO-IZでは独自の「完成保証制度」を設けていますね。こうしたセーフティーネットの在り方が、工務店選びの大切なポイントになると感じました。
清水:TO-IZが確立した「完成保証制度」の特徴は、万一の際にTO-IZのパートナーによって残りの工事が引き継がれることです。工事をきちんと継続するためには、普段からの情報共有が不可欠ですし、技術レベルが揃っていないと出来ません。また「信託制度」を利用することで、資金は第三者機関によってしっかり守られています。
Chap4情報発信の大切さ
編集:今回特に感じたのは情報発信の大切さでした。先のガスメーターの件など、緊急時にはなかなか的確な情報を得られません。
池田:生活するうえで大切な情報を発信することを、ホームページを中心に心がけました。またTO-IZの4社ともに、建て主OBへ早急に連絡をとり、不安を抱えていないか、建物に不具合はないかを確認しました。
編集:印象的だったのは「OMソーラー」などパッシブソーラーシステム(用語解説)についての解説をホームページに掲載されていたことでした。
田中:原発事故の影響もあり、OMソーラーを止めたいという問い合わせがありました。OMソーラーには停止スイッチがない機種もあり、ハンドリングボックス内の配電盤をいじらなければなりません。ただし放射性物質の影響については何とも言えない問題で、こちらから建て主に連絡をとっても不安感をあおる結果にもなりかねません。そこで万一の対応として、停止方法の案内をホームページに掲載しました。現在の住宅は計画換気を義務づけられているので、OMソーラーだけを気にしても仕方ないとは思います。
編集:計画停電についてはいかがでしたか。
田中:太陽光発電システムを、停電中に直結して使いたいという問い合わせがありました。太陽光で発電している最中であっても、通常の状態では停電と同時に電気は止まってしまいます。そこで「自立運転」に手動で切り換え、非常用コンセント(最大1500W)から電気をとる必要があります。ただし電圧は不安定なので使える機器は限られるようです。
編集:岡庭建設では、被災地への物資支援に協力されていらっしゃいましたね。
池田:ブログで協力を呼びかけたところ、建て主OBやそのご関係の方々から、短時間で沢山の支援物資を持参していただきました。それをボランティアの運営するセンターへ運び、団体をつうじて被災地へ提供しました。
清水:原発事故の直後は、チェーンメールを含め「現場作業を中止した方がいい」など様々な情報が飛び交い、正確な情報を判断することの難しさを実感しました。
中里:厳しいヨーロッパ圏の基準や、放射性物質の拡散予想など、様々な角度からの情報を集め、現場作業を継続できるかどうかを随時検討しながら、スタッフの不安を取り除くことを第一に考えました。
清水:特に飲料水に対する関心が高まっていて、高性能浄水器についての問い合わせが多いです。放射性物質の除去をうたうメーカーもありますが、実証がないかぎり、こちらからお薦めすることはできません。一方自然エネルギーの利用については、感心の高まりを感じます。エネルギーが減少した事態にそなえたいという思いからでしょう。
Chap5住宅とエネルギーの関係
編集:今後は原発の存続・廃止問題をはじめ、エネルギーの生産・消費について様々な議論が行われていくと思います。その中で、住宅とエネルギーの関係はどのように変化すると思われますか。
中里:原発が駄目だから原発の電気はゼロという社会は、にわかには成り立たないと思います。現在の7割くらいの電力量でまかなえるエネルギー供給のグランドデザイン改革が求められるでしょう。
編集:中里さんは震災前に電気自動車(日産リーフ)を購入されていましたが、いかがでしたか。
中里:現実としてガソリン不足の影響を受けなくて済みました。電気自動車が普及すると電気使用量が増えそうなイメージもありますが、将来、バッテリー容量の拡大や「スマートグリッド」の発展などにより、電力使用ピーク時の補助的な電力源としても注目されています。日本は大手電力会社の寡占化により、世界一高いレベルの電気代を払わされています。これからは、海上風力発電や太陽光発電、マイクロ水力発電、波力発電、燃料電池など、二酸化炭素の排出量の少ない様々な発電方法を、地域の特性に合わせて導入することが必要でしょう。
清水:エネルギー問題も大切ですが、私はまず住宅の保温性能を高めるべきと思います。
省エネ住宅を建てますという所は沢山ありますが、実現するには様々なノウハウの蓄積が必要です。
池田:私が今回強く感じたのは、家づくりは結局「人」だということです。我々の家づくりは、既製品の建材を使う割合が元々少なく、階段を作ったり、ムクの床材を張ることもできます。普段から、大工や諸職を大切にした家づくりを行ってきたからこそ、既製品の建材や設備が入手しにくくなっても、代わりの材料を使って家を建てられます。一方、既製品を基盤にした大手ハウスメーカーや建売メーカーには、厳しい時代になると思います。
清水:大手ハウスメーカーは、人の手をできるだけ省きながら家を建てることを目標としてきました。しかし震災を契機に、人の手の大切さが明確になったわけです。大手の理論は崩壊したのではないかとさえ感じます。
編集:例えば先端技術の塊といわれた原発も、結局は命がけで現場にいる方々の手によって事故処理が進められています。家づくりも連綿と続く職人の手仕事が大切になるのですね。エネルギー問題も含め「原点回帰」がこれからのテーマになると感じました。本日は貴重なご意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。