月刊Webマガジン「ア・ハウス・オブ・コラージ」は、東京家づくり工務店の会イコールパートナー工務店の提供でお送りいたします。購読は無料です。東京家づくり工務店の会

ア・ハウス・オブ・コラージのサポーター各社は「東日本大震災」の義援金活動(日本赤十字社)に協力しております。

Backnumbers  
ア・ハウス・オブ・コラージの発行をお知らせします。メールマガジン「TO-IZニュース」>>詳しくはこちら
インターネットで今すぐ見られる 宅地の素顔 3.11以降に変わったこと 3.11以降、田中工務店の田中健司さんは「宅地に対する考え方が大きく変わった」といいます。家づくりのプロは、これからの土地選び・家づくりをどう考えているのか、誰でもインターネットで見られる資料を元に検証します。 田中工務店は、東京都江戸川区西小岩3丁目にあります。江戸川区の面積は23区のなかで4番目に広い49.09k㎡、人口も4番目の約69万人。平均年齢は23区で最も若い41.5歳です。田中工務店の周辺にも多くの小中学校があり、子供たちの明るい声が響いていました。 地震のゆれやすさ 右の図は内閣府が公表している「表層地盤地震のゆれやすさ全国マップ」(東京版)です。地震のマグニチュードが大きく、震源に近いほど揺れは大きくなります。 それともうひとつ大切な要素として注目されるのは「表層地盤のゆれやすさ」です。この図でわかるように、西側の山岳部から西側の平野部にかけて揺れやすさが増しています。 「我が国では、関東平野、大阪平野、濃尾平野などの平野部に多くの人が住んでいますが、このような地域は今回のマップから、やわらかい地盤で覆われ、ゆれが大きくなることが分かります」(内閣府) ※この図はあくまで表層地盤の揺れやすさで、  実際の地震の揺れの大きさとは異なります。 武蔵野台地と低地 ここで東京東部の地形を見てみましょう。この図は国土交通省ハザードマップポータルサイトで公開されている国土地理院の「精密基盤標高地図」です。濃い青は標高0m以下、明るい緑は標高50m以下です。これで分かる通り東京都心部は「武蔵野台地」の東の縁にあたり、上野や皇居の東側には江戸時代から続く土木工事によって整備された平地が広がっています。 そのなかで江戸川区は、荒川と江戸川に挟まれ、中心を新中川が通る低地に位置します。 写真にある「A.P.」とは「荒川工事基準面(Arakawa Peil)」の略です。A.P.は明治のはじめオランダ人技師の指導で決められ、荒川の干潮時の最低水位を「0m」としています。この堤防にはA.P.+2.1mが満潮の水位と記されていました。ちなみに海抜は「東京湾平均海面(T.P.)」を0mとしていて、A.P.よりも約1.1344m高くなります。 東京の治水のかなめ荒川放水路 JR中央・総武線の平井駅で下車して、荒川の堤防を散歩しました。ここは「荒川放水路」と呼ばれた人工の河川です。明治44年から20年もの歳月をかけ、赤羽岩淵から中川の河口まで全長22㎞、幅500mを、人力や馬、蒸気掘削機で開削した大工事でした。 赤羽岩淵の「岩淵水門」の所で、隅田川と荒川放水路が分かれます(隅田川は元々は荒川でした)。東京下町を抜ける隅田川は、洪水によって大きな被害を与えてきました。大雨の際は岩淵水門を閉じることで隅田川への水流を遮断して荒川放水路へ送り、下町を大洪水から守ってきたのです。 江戸川区の対策 こうした状況をふまえ、江戸川区は詳細なハザードマップを作成し、区民に防災を呼びかけています。 右の図は江東区が独自に制作した「揺れやすさマップ」です(制作されていない自治体もあります)。 江戸川区で直下型地震が起きたことを想定し、50m四方ごとに震度を色分けしています。赤い部分は震度7、黄色からオレンジの部分は震度6.0~6.4を予測しています。 田中工務店の田中さんは「耐震性については木造住宅でもかなり研究が進んでいて、震度の目安さえ分かれば、それに合わせた工夫を設計に盛り込めます。地震対策で最も大切なことは人命を守ること。つまり建物の倒壊を防ぐことです。現状の技術では、損壊を全て防げないとしても倒壊することは無いと考えています。しかし建物をいくら強くしても人命や生活を守れない事態があることを、今回の震災は教えてくれました」といいます。 建物自体では防げないこと 今回の震災で最も大きな被害をだした津波。東京湾に巨大津波は起らないといわれていますが、海抜0m地帯での洪水や高潮の被害が予測されています。 右の図は江東区が作成した「洪水ハザードマップ」です。江東区の7割は海抜0m以下の低地で、荒川や新中川、旧江戸川の平均満潮位A.P.+2.1mよりも低くなっています。このマップはこれらの川が決壊し浸水した際に、どの程度の水深になるかを予測しています。青い部分は2.0~5.0m未満の水深、ブルーの部分は1.0~2.0m未満となります。 「浸水に対しては個人住宅で工夫出来ることは少ない」と田中さん。1m程度の浸水が予測される区(中野区など)では、住宅地の地盤のかさ上げに対して補助金がでる場合もあります。しかし5mにもなる浸水に対しては、避難指示にしたがい「地域防災拠点」(江戸川区では3カ所)への避難をすみやかに行うことが最も有効とされています。先の「精密基盤標高地図」で分かるとおり、葛西臨海公園などの地域防災拠点は、海抜5m以上の高さになっています。 地域の「家守り」  三代目代表 田中健司 kenji tanaka 私たち田中工務店は、東京・小岩の街と共に生きてきた都市型の工務店です。祖父である初代から数え、私は三代目の代表になりました。木造住宅の新築・リフォームの他、私たちが建てた家の保守、点検、手入れなど「家守り」を主な仕事としています。 東京だからこそ木の家を 東京で木の家を建てるためには諸条件の厳しさ(狭小、変形、密集、防火)をクリアしなければなりません。そのための「最適解」を見出す経験と力量が必要です。都市部で長年家を建ててきた経験を元に、木造の狭小住宅やOMソーラー住宅を数多く手掛けています。他では無理だといわれた敷地でも、一度私たちに相談してみてください。 住宅業界では自然素材ブームは終わりつつあると言われますが、これを流行としてとらえること自体が間違いと感じます。我々は自然素材を使った無垢の木の家を基本として、日本の家づくりを大切にしています。 住み継ぐ家をつくり継ぐ こうした考え方にもとづき時間の経過とともに、その価値が明確になる住まいづくりを目指しています。もちろん「いい家」は自然素材や自然エネルギー、断熱材だけでは建てられません。豊かな暮らしを実現する空間を作りだす設計力・デザインセンスも必要です。 設計を練り込んで、つくり込みをして、家を建てた後も「家守り」を行う管理工務店として、地域に根差した活動を続けています。よい家並みの続く豊かな街の環境が、未来の子供たちにとっても欠かせない財産となるよう、これからも住み継ぐ家をつくり継いでいきます。 ■ 詳しくは田中工務店Webサイトをご覧ください ■ 私の目指す工務店  代表取締役 中里一雄 kazuo nakazato 地域に密着し質のよい家を造り、建てた後も家守り(いえまもり)として、技術や職人の永続性に注力すること。それが創建舎の経営理念「誠意と努力に裏打ちされた技術による、その時最高の家づくり」です。 創建舎の基本姿勢 ○ スタイルをつくらない 家は住まい手のものであって、設計者や工務店の作品ではありません。こだわりは住まい手のものであり、それに最良の答えを導き出すのがつくり手の役割です。 ○ 引き出しを常に最高の状態にしておく 優れた実例を視察したり、勉強会に参加したりしてデザイン力、設計力を高め、常に品質を保持しながらコストダウンも図り、現時点での最良の答を用意しておくことに努めています。 ○ものづくりを行なう会社であることを決して忘れない 「家づくり」は「ものづくり」です。家の品質は現場の施工力によって決まります。現場監督の教育や大工の育成を行いながら、大工が安心して「ものづくり」に励めるよう社員として雇用しています。 ○「家守り」をきちんとしていく 品質の良い長寿命の家を造るだけではなく、工務店にはその家を守り続ける責任があります。専任のメンテナンス体制をとり、定期点検だけでなく、さらに高いレベルのリフォーム技術を獲得していくことに努めています。 ○「家は社会の財産でもある」という意識を持つ 家が出来るまでにはたくさんの資源が使われ、住み始めてからも沢山のエネルギーや水を使います。「家は社会の財産でもある」という意識を持ち、地球や地域環境にも配慮した省エネの家づくりを行っていきます。 ■ 詳しくは創建舎Webサイトをご覧ください ■ 家づくりへの考え方 代表取締役 清水康弘 yasuhiro shimizu ○ 明確な性能を確保した住まいをつくること 耐震性能は安全を守る技術。断熱・気密性能は省エネと快適性を両立させる技術です。明確な性能を確保することが、良い家をつくる最適解と考えています。 ○ 住まい手が愛着を持続できるデザインであること 住まいは街の財産でもあります。設計部門を分社化することで、住まい手が住宅設計家と共につくるデザイン性の高い住宅をご提案します。 ○ 現場で品質を貫くための監督力 現場の指揮官は現場監督の仕事です。「品質は現場で守る」ことを徹底すること。多くの現場を掛持ちさせず現場監督の能力向上と工程の分散に最も気を配ります。 ○ 家づくりは建築業と製造業の中間にあるということ 住宅建築は製造業に近いと考えています。品質向上のためには精密な詳細図を基盤にすえ、設計者、現場監督、職人の間の意思疎通を徹底しています。 ○ 住まい手のこだわりに応えるekreaオーダーキッチン 弊社のekreaオーダーキッチンは、建築と家具の融合という発想から生まれ、デザインはもとより、使い勝手と機能性に優れたキッチン・収納をご提案しています。 ○ 時代の求める省エネルギー住宅 時代は省エネルギー住宅を求めています。燃費性能や自立循環型住宅、ウッドマイルズなどの環境指標による評価を導入した取り組みを進めています。 ○ 長持ちする家をつくり続けること 長期優良住宅先導事業など高い技術のハードルを設定し、数多くの長寿命化住宅を築いてきました。 ○ 家守りをきちんとすること お引き渡し時には、住宅履歴情報サービスへデータを保管すると共に、専任の家守り担当者を配置し、定期点検はもとよりリフォームのご相談にも対応して参ります。 ○ 安全な工法や素材を吟味する 工法や素材の採用にあたっては、その会社のモノづくりへの思想や対応を知ること、工法の技術的根拠や素材の安全性をしっかり調べることを大切にしています。 ■ 詳しくは参創ハウテックWebサイトをご覧ください ■ 住み手と一緒につくる家 専務取締役 池田 浩和 hirokazu ikeda いい家は住み手とつくり手が「一体となったときに生まれる」。そんな思いが当社の原点となっています。互いに考え、話し合い、皆で力を合わせてつくりあげていく!そんな家づくりの日々を過ごしていくと、完成までには家族のようになれる。これが私たちの家づくりです。 「家づくり学校」を開設 家づくりは誰もが不安を抱えています。そこで当社は「家づくり学校」の運営に取り組んでいます。住まい手の方を対象とした定期セミナー「家づくりの進め方」では、初歩的な家づくりの流れを学びます。セミナーで学ぶ一方、家づくりの不安やアドバイスなど、住み手同士の情報交換の場ともなっています。 また実際の施工例を見学する「住まい手の家を見に行こう見学会」は、住まい手から家づくりのプロセスやエピソードをお聞きしたり、参加者と住まい手の間でコミュニケーションを図りながら家づくりを学びます。 このように私たちの家づくりは、OBユーザーである「おかにわファミリー」のご協力も頂きながら、様々な方々とのコミュニケーションのなかで進んでいきます。 設計から施工、完成まで一貫して行う 設計の基本プランは全て私、池田が手がけています。基本がダメなものは、後から取り返しがつきません。 そして、プラン~完成間際の外構工事に至るまで、担当の建築士やデザイナーが全て一貫して管理します。構造計算や長期優良住宅の申請など、当社の設計・管理業務には幅広い知識が要求されます。当社では社員大工を含む社員13名中7名が建築士資格を所有しています。これは「高品質を維持するためにはしっかりとした建築の知識が必要」という当社の思いのあかしです。 ■ 詳しくは岡庭建設Webサイトをご覧ください ■ 液状化という新しい課題 「3.11以降、宅地の考え方に最も影響を与えたのは、液状化現象です」と田中さん。江戸川区に隣接する浦安市も、液状化によって大きな被害をうけました。 この図は土木技術支援・人材育成センターが公開している「東京の液状化予測図」です。これで分かるように、武蔵野台地より東側の低地には「液状化が発生しやすい地域(ピンク色)」がまだらに存在しています。 JR小岩駅周辺の液状化予測図です。ピンク色は液状化が発生しやすい地域。黄色は液状化の発生が少ない地域、緑は液状化がほとんど発生しない地域と予測されています。 江戸川区でも臨海部の埋め立て地に作られたニュータウン・清新町で液状化が起りました。ここは黄色(液状化の発生が少ない地域)とされていました。 液状化は「地盤保証」されない このマップから「液状化が発生しやすい地域」は湾岸部だけでなく、内陸部まで広がっていることが分かります。また小岩駅周辺のように、数km四方のなかに発生しやすい場所と、発生しにくい場所が入り組んでいる地域もあります。 「3.11以前。これほどの規模で液状化現象が起るとは思っていませんでした。これからは個々の宅地単位で本格的な地盤の調査を行い、結果にしたがった液状化対策を行うことが必要と感じました。5月に着工したA邸(千葉県・市川市)では、事前の地盤調査を入念に行い、その結果を地盤対策に盛り込みました」と田中さんはいいます。 現在の住宅に関する補償は主に3種類あります。「瑕疵保証」、「完成保証」、「地盤保証」です。この中で「地盤保証制度」は、地盤保証会社が右のようなプロセスで地盤を10年間保証します。もしも不同沈下などによる住宅の不具合が生じた場合は、その修復工事に対して最大5000万円までの保証を行います。 ただし「地震、噴火、洪水、津波などの天災や、地滑り、崖崩れ、地割れ」等は免責事項として通常は保証されません。今回の地震による液状化は免責事項にあたり、保険金が支払われるかどうかは、地盤保証の意味を問う大きな課題となっています。 液状化に対応した地盤調査 田中さんがA邸の現場で試みたのは「万一敷地が液状化しても、住宅の損壊や不同沈下を極力避けられる家づくり」でした。 「それを実現するためには、従来よりも精密な地盤調査を行い、地盤改良の方法や基礎の仕様を的確に決定する必要があります。そこで今回はじめてラムサウンディング試験を行いました」と田中さん。 宅地の地盤調査の大半は「スウェーデン式サウンディング試験(SS試験)」で行われています。これは先端にスクリューを付けた鉄の棒を地面に刺し、100kgの重りを付けた際にどの程度沈むかを計る試験方法です。沈み込みが止まった時点でスクリューを回転し何回まわしたかを記録していきます。この方式は土の硬さを短時間で何カ所も計測できる一方、ボーリング試験のような土のサンプルをとれないため、地盤がどのような層で構成されているかは分かりませんでした。そのため地中のゴミや沈下しやすい腐葉土の層などを発見することは難しかったのです。 一方この敷地ではSS試験と合わせ「ラムサウンディング試験」を行いました。これは動的サウンディングとも呼ばれハンマーの力でパイプを地面に打ち込み、その回数によって土の硬さを計ります。この方法のメリットのひとつは土中の土を採取できることです。 A邸の敷地では地層のサンプリング調査も行いました。地面から50cm刻みに4.5mまでの土壌を採取して成分を調べます。「ここで大切なのは各成分の割合を知ることです」と田中さん。実は液状化しやすい地盤は細かな砂だけで構成され、粘土や砂利など粒の大きな成分が少ないといわれています。そこで土をふるいにかけて、各成分と粒の大きなどの割合を細かく調べます。結果としてこの敷地は細かな砂の成分が多く、マグニチュード7程度の地震で液状化の可能性があると判定されました。 報告書を元に対策を検討 右のグラフはA邸敷地の土の硬さを示しています。硬さの目安は「N値」で表示され、赤い点の部分はN値20以上の比較的固い部分です。 今回は液状化の被害を極力さけるため「小口径鋼管杭工法」という地盤補強工事を採用しました。これは先端にスクリューの付いた鋼管を地面にねじ込み、その上に住宅の基礎を作る工法です。軟弱な地盤が液状化を起こしても、固い地盤で支持された鋼管が基礎を支え、不同沈下を抑える効果が期待できます。ここでは深さ4.5mまで鋼管を埋めることにしました。 「小口径鋼管杭工法」と基礎の関係を示した平面図です。黒い点の部分を鋼管で支持します。このように地盤改良工事は、基礎部分と連携させないと効果を発揮できません。 この工法の他にも、セメントで地下を柱状に固めていく「柱状改良工法」や、セメント系固化材を散布して板状に地面を固める「表層改良工法」など、敷地や建物の条件に応じた様々な工法が開発されています。 パーフェクトな土地はない こうした調査を土地購入前に行うことは困難ですが、自治体の窓口で候補地の情報を入手したり、地盤調査会社による周辺の調査結果は参考になります(下記ジオダスなど)。 「土地を購入する前に、地域の工務店に相談する方も増えています。土地の価格が安くても地盤改良にコストがかかるケースもありますし、条件が多少悪くても快適で安全な住宅を建てる手段もあります。都心部でパーフェクトな土地を見つけるのはほぼ不可能です」と田中さん。土地の素顔を明らかにして、不足をどう補うかを検討し対処することが、最も有効な土地の利用法といえるのかもしれません。